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大場夕也

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木を伐らないで!
木を伐らないで!


母さんは庭の大きな木を伐れと僕と父さんに言う。
僕は耳を塞いで頭の中で何度もお経を唱えたから助かったけれど、僕の父さんはまるで九官鳥のように木を伐ろうって言い出しちゃった。
そして、木を伐ろう、木を伐ろうって喋り狂う父さんを見て、母さんはニコニコ微笑んで鶏肉をさばき出す。

僕はね、こんな父さんと母さんが嫌い。
僕の父さんと母さんは死んでしまったんだ。
プラスチックと車とペンキのシンナーの呪文で死んでしまった。
そう思うと僕は急にガクガク震えて思わず叫んだ。
「木も生きているんだよ!殺さないで!僕、ちゃんと庭の掃除するから!」
母さんは真っ白な目をして、
「馬鹿。あの木は邪魔なの!お隣さんに枝がすっかり伸びちゃって悪いしね。それに大きな台風でも来てごらんなさい。倒れてお隣さんのお家にでも落ちたらどうするの。私たち、そんなお金無いわよ。」
父さんも無表情に笑って言う。
「お前も大人になればわかるさ。」
「バカバカバカ!死人め!あの木は僕が生まれる前からずっとあるんだよ!隣近所のくだらない問題で一つの尊い命を奪う気なのか!」
「こら!なんて口の利き方だ!お前、そんな木の命がどうだって言ってやがるがな、お前は気になると言ってはしきりに手を洗って水を無駄に使うし、花粉症が酷いと言っては、ちり紙だってうんと使っているんだぞ。これだって立派な伐採じゃないか。」
「そうよ!それにお前は、花粉なんてなんでこんなものがあるんだ、なんていつもヒーヒー言いながら杉め!杉め!と呪うように愚痴るじゃないの!」

そう。全くその通りだ。
潔癖症で花粉症だ。お水じゃんじゃん、ちり紙じゃんじゃん。花粉大嫌い。
すると、ぬいぐるみを抱えた妹がふと僕に言ってきた。
「お兄ちゃん、いつもそう。こんな時ばかり決まって正義ぶるの。普段から自然に対して何もしていないくせに。」
ああ!妹まで!どうしてこんなに意地悪なんだろう!
きっと去年のホワイトデーのお返しをしていないものだから、ずっと今まで根に持ってこうして僕に意地悪をするんだ。妹は執念深い!

何も言えなくなった僕は学校の先生の所へ相談しに行った。
もちろん僕の汚点はひた隠しにして。
そしたら先生はアドバイスをくれた。
「君は芸術家になれば何か大きなものを創造するかもしれない。芸術家になってその事を自分らしく表現してごらんなさい。早速今から美術クラブで絵を描きなさい。私から推薦しておこう。」

すぐにその足で美術クラブに行くことになった。
一階の一番隅の一番汚い教室。
この教室だけモヤモヤした気持ちの悪い欲のようなものが臭う。
でも勇気を出して教室に入ると、三人の生徒が居た。みんな男だ。
僕はすぐ近くに居た眉間に影のある男に訪ねてみる。
「あの、君はどうして絵なんて描くんだい?」
「僕はね、女性を描きたいんだ。この体の美しさ!このリズムある曲線は女性にしかないものだからね!だけどこの美しい形を捉えるのは実に難しい。だからこうして毎日訓練しているのさ。」
そう言いながらパソコンに向かってエッチな動く映像をじろじろ見ながらデッサンをやり始めた。
彼の瞳孔は開きっぱなしだ。
そのデッサンを暫く見ていると、彼の向こう側に居る西洋かぶれのような風貌の男が何も聞いていないのに勝手に喋り出した。
「私は芸術とは自分を表現する事だと思うね。どれだけ個性的な絵を描けるか。どれだけ人と違う事が出来るか。そうするには君、どうすれば良いと思う。それは無心になって絵筆を走らす事さ!自分を大胆に!だが私にどうしてこのような絵が仕上がるのかは謎だ。しかし、これが面白さの一つだよ。こう言っても君に解るかな。無理もない、私は変わり者だからな。」
彼の話が言い終わるか終わらないうちに残りの男はこう言い出した。
「俺はね、つまり画家だよ。毎日アトリエで画布や油絵具、このリンシードオイルの匂いに愛されながら過ごすんだ。そうして自分にしか見えない真実を絵にして訴える。アーティストっていうのは特別な存在なんだ。誰もがやれるもんじゃない。俺はアーティストで画家なんだ。他の奴らとは違う。おい!君!俺のフランス製の筆に手を触れるな!」

教室を後にした僕の手は熱い血潮が騒いで止まない。
芸術家とはなんて素晴らしいんだ!
僕は今日から芸術家だ!だけど決して人から習わない!独学だ!
僕は真の芸術家だからね。猿真似なんてごめんだ。
息を荒くしながら僕は帰った。
あの木の悲しみと恐怖を描くんだ。
描いて訴えるんだ。

僕は教室から持ち出した沢山の絵具とキャンバスで大きな木の絵を描いた。
そしてこれを居間に飾ってみた。
すると父さんと母さんが何か言うかと思ったら何も言わない。
変わりに妹が携帯のカメラでパシャパシャ撮ってネットに載せやがった。
頭にきた僕は大きな声で、
「この絵を見ろ!これでも木の思いがわからないのか!伐られたくない木の気持ちが…!」
父さんは思い出したかのように呟いた。
「ああ…あれはもう終わった。今さっき業者さんに伐ってもらったんだよ。お前はあんなにチェーンソーの大きな音がしていたのに気が付かなかったのか。木よりもその絵の方に夢中だったみたいだな。」
「あら、皮肉ね。ふふふ。」
父さんと母さんの言葉を聞いた僕は、すぐさま台所にある大きなコーラを持って、猛ダッシュで二階の部屋に戻った妹の所へ駆け寄った。
「この塩辛いしょっぱい女め!このコーラでも飲んで少しは甘さを覚えたらどうだ!」
僕は妹を羽交い締めにしてコーラを口いっぱいに浴びせた。
「ちくしょう!ちくしょう!お前らなんかこうしてやる!」
「お兄ちゃん、止めて、止めて、死んじゃう!」

やはり僕も死んでいたのだ。
遠い遠い昔から僕も死んでいたんだ。
気を失った妹を抱いて窓の外を覗いたら、庭には木が倒れていて、僕の方を向いて笑っていた。



挿絵「木を伐らないで!」 ペン/紙(B5) 2015年
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2015.02.18(Wed) | お話 |

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