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大場夕也

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白猫、自身を語る
白猫、自身を語る


ええ、もう早いもので、私がアルと名付けられて十年ばかりの年月が経とうとしております。
やはり、こうして現世を生きていると、長い猫生、色々な事がございます。
前回お話した鎌倉捜索事件やサイパン波乗り事件なんてのも、今となっては良い思い出に過ぎません。
他にですか。そうですねぇ…ああ、それなら今日は一つ、私がアルと呼ばれる前のお話でも致しましょう。


それは昔、昔。
まだ私が遠い遠い遠州の国、天竜川の河川敷に居りました頃の話です。
歳はまだ三ヶ月にも満たない時分でございました。
あれはちょうど丑三つ時でしたか。
頬の透けた人間が二人、くすぐったい笑みを浮かべて赤い月の方へと消えて行きました。
天は煙で覆われ、辺りは闇ばかり。
私はゴオゴオと鳴り響く稲妻のような天竜川の音に震え、一人小さくなっておりました。
目の前の錆びた石の上にはコップ一杯のミルク。
これが尽きる頃にはきっと人間達がまた帰って来ると、私は思っていました。
けれども人間達は帰って来ませんでした。
赤い月からは凍える風が通り過ぎるばかり。
しかし、暫くすると、風と共に一匹の猫が現れました。

黒と黄土の体は随分くすんではいましたが、硬く力強い毛にガッチリとした筋肉と、太いちからコブのような肉球が今でも鮮明に思い出されます。
彼は私の横に置かれたミルクの匂いに導かれたと言います。
「お前も捨てられたか。俺と同じだな。ああ、そう思う気持ちは分かる。だが奴らは二度と帰っては来んぞ。お前を捨てたんだからな。ここで優しい人間に拾われろってな。だがそんな人間はいない。あ!」
遠くで人間の足音が聞こえました。
「ひとまず此処は危ない。さあこっちへ付いて来いよ。」
彼は私の手を引いて、駆け足で橋の下の草むらへ入り込みました。

「いいか。何よりも第一に気を付ける事は目の死んだ人間だ。奴らの背後を見れば分かるが、幾千もの動物霊達が見える。霊達が言うには動物を沢山集める場所があって、人間達の手で一度に葬り去るらしい。人間から見れば俺達は邪魔で、人間生活の害になるようだ。そして葬る際は手を汚さないように機械を使うらしい。」
このとき風が刃物のように鋭く吹き荒れたのをよく覚えております。
しかし彼は気にも止めず、そのまま話を続けました。
「そして第二が動く鉄。人間達は兎に角忙しい。こいつに乗り込んであっちこっち飛び回って移動するんだ。これがもの凄いスピードでな。触れただけで死んでしまうんだ。俺の妹はこいつにやられてよ…」
彼はそう言って首元から小さな紙を取り出して暫く眺めていました。
それは妹さんの似顔絵でした。

「はは。これか。これはよ、あれは何年も前かな。浮浪者の人間が描いてくれたんだ。今まで見た人間の中で唯一の良い人間でな。そいつは家が出来たら一緒に住もうとも言ってくれたんだ。けれどある日、三人の若い人間に殴り殺されたよ。乞食のくせに色鉛筆なんか持ちやがって!生意気なゴミめ!ってな。そん頃の俺はまだ子猫でさ。怖くて助けられなかったんだ。だが今度奴らを見つけたら八つ裂きにしてやるつもりさ。」
彼は興奮して爪を出し、尻尾を立てました。

「もう足音が遠ざかったみたいだ。こっちへ来いよ、家へ案内してやる。」
しばらく川沿いを下ると、草木に隠された廃墟のプレハブがありました。
中は西洋風で、割れた鏡やボロ絨毯、木の椅子や装飾が施されたお皿もあります。
案内された私は椅子に飛び乗ると、上から小鳥の声が聞こえてきました。
「じゃじゃーん!ようこそ!私はチッチ。宜しくね。」
彼は笑ってチッチを紹介しました。
「こいつも俺達と同じで捨てられたんだ。」
黄色い小鳥のチッチは言います。
「きっと何か深い理由があるのよ。いつか必ず迎えに来てくれると思うわ!私は信じてる!」
「無いね!どうでもいいけど、特にチッチは小さい人間には気を付けろ。小さい人間は石を投げるからな。」
「わかってる。それより白猫さん、お腹空いてるでしょう。急いでご飯のお支度をするわね。えーと、猫さんだから…お魚が良いかしら。」
すると彼がちょっと自慢げに言いました。
「俺が手取り足取り教えてやったんだぜ。チッチは長く飼われていたからな。最初は何も出来なかった。」
こうして彼らと15日間を共に過ごしました。
私にとって彼らと暮らした時間はとても美しかった。
しかし、15日目の黄昏時に事件は起こりました。

「やられた!!」
突然、外から甲高い声がしたのです。
耳を大きくした彼は
「あれはチッチの声だ!きっと外で何かあったんだ!お前も来てくれ!」
家の中に居た私達は急いで外に出て、声のする方角へ走りました。
薄暗い空には朱き月が顔を覗かせています。
「あ!チッチ!チッチ!」
そこには仰向けになった小鳥のチッチが真っ赤な血を出して川に流されていました。
彼は無我夢中で苦手な水も構わず川に飛び込みました。
「一体どうしたんだ!人間か!ちくしょうめ!」
彼は泳いでチッチを抱くと、コンクリートの橋にしがみ付きました。
「白ー!俺の家にボロの長い釣り竿がある!それを持って来てこっちへ投げてくれ!」
私は必死になって家に向かいました。
「チッチ、もう少しだ!白を信じて待つんだ!人間なんかに負けて死んじゃ駄目だぞ!おい!しっかりするんだ!お前、いつか飼っていた人間が必ず迎えに来てくれるって信じてんだろ!ここで死んだら二度と会えねぇんだぞ!」
私は家からボロの釣り竿を持って一生懸命駆けました。
神様!どうか間に合いますように!チッチはまだ死んではならないのです!と何度も祈って。
すると、突然、体が浮き上がりました。

「みーつけた!こんな汚い色をして可哀想に。釣り竿は食べらんないよ。でももう大丈夫。お前は今日から家の子だ。」
「おーい、yuyaさん!河川敷の野良猫、見つかったかね。」
「はい!とても可愛い白猫です。有り難い!大事に育てます。」
「おう、そうかね、そうかね。白ちゃん、良かったなぁ!飼い主さんが見つかって!」
こうして私はその場で引き取られました。


今となっては彼もチッチもどうなってしまったのか全く分からずにおります。
ええ、誠に人の世は不可解なものでございます。
私どもが苦しめば人間達も苦しむ摂理でございますのに。
その後、私の飼い主は何か絶望の早とちりを起こして首を吊ってしまいました。
いやはや、人間とは滑稽な生き物でございますよ。



挿絵「白猫、自身を語る」 鉛筆/紙(A4) 2015年
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2015.07.13(Mon) | お話 |

木を伐らないで!
木を伐らないで!


母さんは庭の大きな木を伐れと僕と父さんに言う。
僕は耳を塞いで頭の中で何度もお経を唱えたから助かったけれど、僕の父さんはまるで九官鳥のように木を伐ろうって言い出しちゃった。
そして、木を伐ろう、木を伐ろうって喋り狂う父さんを見て、母さんはニコニコ微笑んで鶏肉をさばき出す。

僕はね、こんな父さんと母さんが嫌い。
僕の父さんと母さんは死んでしまったんだ。
プラスチックと車とペンキのシンナーの呪文で死んでしまった。
そう思うと僕は急にガクガク震えて思わず叫んだ。
「木も生きているんだよ!殺さないで!僕、ちゃんと庭の掃除するから!」
母さんは真っ白な目をして、
「馬鹿。あの木は邪魔なの!お隣さんに枝がすっかり伸びちゃって悪いしね。それに大きな台風でも来てごらんなさい。倒れてお隣さんのお家にでも落ちたらどうするの。私たち、そんなお金無いわよ。」
父さんも無表情に笑って言う。
「お前も大人になればわかるさ。」
「バカバカバカ!死人め!あの木は僕が生まれる前からずっとあるんだよ!隣近所のくだらない問題で一つの尊い命を奪う気なのか!」
「こら!なんて口の利き方だ!お前、そんな木の命がどうだって言ってやがるがな、お前は気になると言ってはしきりに手を洗って水を無駄に使うし、花粉症が酷いと言っては、ちり紙だってうんと使っているんだぞ。これだって立派な伐採じゃないか。」
「そうよ!それにお前は、花粉なんてなんでこんなものがあるんだ、なんていつもヒーヒー言いながら杉め!杉め!と呪うように愚痴るじゃないの!」

そう。全くその通りだ。
潔癖症で花粉症だ。お水じゃんじゃん、ちり紙じゃんじゃん。花粉大嫌い。
すると、ぬいぐるみを抱えた妹がふと僕に言ってきた。
「お兄ちゃん、いつもそう。こんな時ばかり決まって正義ぶるの。普段から自然に対して何もしていないくせに。」
ああ!妹まで!どうしてこんなに意地悪なんだろう!
きっと去年のホワイトデーのお返しをしていないものだから、ずっと今まで根に持ってこうして僕に意地悪をするんだ。妹は執念深い!

何も言えなくなった僕は学校の先生の所へ相談しに行った。
もちろん僕の汚点はひた隠しにして。
そしたら先生はアドバイスをくれた。
「君は芸術家になれば何か大きなものを創造するかもしれない。芸術家になってその事を自分らしく表現してごらんなさい。早速今から美術クラブで絵を描きなさい。私から推薦しておこう。」

すぐにその足で美術クラブに行くことになった。
一階の一番隅の一番汚い教室。
この教室だけモヤモヤした気持ちの悪い欲のようなものが臭う。
でも勇気を出して教室に入ると、三人の生徒が居た。みんな男だ。
僕はすぐ近くに居た眉間に影のある男に訪ねてみる。
「あの、君はどうして絵なんて描くんだい?」
「僕はね、女性を描きたいんだ。この体の美しさ!このリズムある曲線は女性にしかないものだからね!だけどこの美しい形を捉えるのは実に難しい。だからこうして毎日訓練しているのさ。」
そう言いながらパソコンに向かってエッチな動く映像をじろじろ見ながらデッサンをやり始めた。
彼の瞳孔は開きっぱなしだ。
そのデッサンを暫く見ていると、彼の向こう側に居る西洋かぶれのような風貌の男が何も聞いていないのに勝手に喋り出した。
「私は芸術とは自分を表現する事だと思うね。どれだけ個性的な絵を描けるか。どれだけ人と違う事が出来るか。そうするには君、どうすれば良いと思う。それは無心になって絵筆を走らす事さ!自分を大胆に!だが私にどうしてこのような絵が仕上がるのかは謎だ。しかし、これが面白さの一つだよ。こう言っても君に解るかな。無理もない、私は変わり者だからな。」
彼の話が言い終わるか終わらないうちに残りの男はこう言い出した。
「俺はね、つまり画家だよ。毎日アトリエで画布や油絵具、このリンシードオイルの匂いに愛されながら過ごすんだ。そうして自分にしか見えない真実を絵にして訴える。アーティストっていうのは特別な存在なんだ。誰もがやれるもんじゃない。俺はアーティストで画家なんだ。他の奴らとは違う。おい!君!俺のフランス製の筆に手を触れるな!」

教室を後にした僕の手は熱い血潮が騒いで止まない。
芸術家とはなんて素晴らしいんだ!
僕は今日から芸術家だ!だけど決して人から習わない!独学だ!
僕は真の芸術家だからね。猿真似なんてごめんだ。
息を荒くしながら僕は帰った。
あの木の悲しみと恐怖を描くんだ。
描いて訴えるんだ。

僕は教室から持ち出した沢山の絵具とキャンバスで大きな木の絵を描いた。
そしてこれを居間に飾ってみた。
すると父さんと母さんが何か言うかと思ったら何も言わない。
変わりに妹が携帯のカメラでパシャパシャ撮ってネットに載せやがった。
頭にきた僕は大きな声で、
「この絵を見ろ!これでも木の思いがわからないのか!伐られたくない木の気持ちが…!」
父さんは思い出したかのように呟いた。
「ああ…あれはもう終わった。今さっき業者さんに伐ってもらったんだよ。お前はあんなにチェーンソーの大きな音がしていたのに気が付かなかったのか。木よりもその絵の方に夢中だったみたいだな。」
「あら、皮肉ね。ふふふ。」
父さんと母さんの言葉を聞いた僕は、すぐさま台所にある大きなコーラを持って、猛ダッシュで二階の部屋に戻った妹の所へ駆け寄った。
「この塩辛いしょっぱい女め!このコーラでも飲んで少しは甘さを覚えたらどうだ!」
僕は妹を羽交い締めにしてコーラを口いっぱいに浴びせた。
「ちくしょう!ちくしょう!お前らなんかこうしてやる!」
「お兄ちゃん、止めて、止めて、死んじゃう!」

やはり僕も死んでいたのだ。
遠い遠い昔から僕も死んでいたんだ。
気を失った妹を抱いて窓の外を覗いたら、庭には木が倒れていて、僕の方を向いて笑っていた。



挿絵「木を伐らないで!」 ペン/紙(B5) 2015年


2015.02.18(Wed) | お話 |

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